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森 公作(もり こうさく)
1949
年生まれ。愛知県春日井市出身。名城大学薬学部卒業、同大学院薬学研究科修了。
名城大学薬学部助手、名古屋市内のOTC薬局勤務を経て、1978年、春日井市に「森薬局」を開局。
1991
年、同市に居宅介護支援事業所を併設する「グリーン森薬局」を開局。
薬剤師の立場で、地域の在宅医療への積極的な参画を進めている。元・愛知県薬剤師会会長。

「もっと外へ。」前編 ~在宅医療における役割

社会情勢の変化とともに医療、福祉、介護は変化を求められ、薬剤師という立場もその例外ではない。著しい高齢化の流れのなかで、これからの薬剤師の在り方とは

愛知県のJR春日井駅南口前にある「グリーン森薬局」は、居宅介護支援事業所を併設。OTC販売、保険調剤に加え、訪問薬剤管理指導および居宅療養管理指導の「在宅訪問」に積極的に取り組んでいる。その経営者・森公作さんに取材を実施し、前編では、在宅訪問の実際から、在宅医療における薬剤師の役割を考えていく。

 取材の日、最初に森さんが訪問した患者さんは、80代の男性。60代で起きた脳出血の後遺症で左半身が動かず、ほぼ寝たきり状態。奥さんが亡くなって以来、約7年は独り暮らしだ。ベッド脇に薬をおき、気さくな雰囲気で言葉をかける森さん。トイレのこと、リフォーム工事のこと。とりとめのない冗談を交えながら会話を弾ませる。ときには、その手にそっと手を添える。 「森さんや主治医の先生、看護師さん、ヘルパーさん。いろんな人に支えられて、すごく幸せだよ」。 穏やかに微笑む患者さん。その言葉に、「訪問」の大きな意義が表れていると言えそうだ。

在宅訪問による管理指導の実際 無菌製剤などの特殊な対応も

身体的理由等で病院やクリニックの受診が困難な患者さんに、在宅診療をおこなっている医師とチームを組んで、薬の管理をおこなう訪問薬剤管理指導(医療)および居宅療養管理指導(介護)。グリーン森薬局では、地域の中核医療機関である春日井市民病院をはじめ、各医療機関からとどくファックスでそれがスタートする。在宅では初回に送られてくるのは、処方箋、住所などの患者さんの情報、病気の内容や症状だ。

20118月現在で、担当する在宅患者さんは77人。ほとんどは薬局のある春日井市内在住だが、今はもっとも遠いところで、北へ約15km、約片道45分の犬山市の患者さんも担当している。 「特別な事情がある場合には、遠方の患者さんも引き受けています。依頼があれば断ることはしません」(森さん、以下同)。

同薬局では、クリーンベンチを備えて無菌製剤を調整できる体制を整えており、また、がん患者さんの疼痛管理のための麻薬処方箋など、難しい処方箋にも対応できるため、医療機関から指名されることが少なくないのだという。薬局内の業務をほかの薬剤師にまかせ、在宅訪問はおもに森さんが担当。 訪問は通常、容体が安定していれば4週間に1回、不安定なときは2週間に1回だが、言動が不安定であったり、状態が悪かったりと、なんらかの懸念があるときには23日に1回訪ねることもある。
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日当たりの訪問件数は平均78軒で、多い日には、1日に1516軒になることも。
なお、訪問の足には、小回りのきく軽自動車を使用しており、その走行距離は1ヵ月1,500㎞に及ぶという。
「予定を回りきれず、翌日の朝にもち越すこともあります。ハードなときもありますが、待ってくれている人もいるので、大変と思うことはありません」。

届けておわりではない 服薬の「確認」や「見守り」もその一部

この在宅訪問には、調剤した薬をとどけるに加え、2つの大きな意味があるという。その1つが「確認」だ。
「渡すだけでは薬の服用実態を把握することはできません。いつ、どこで、どう飲んでいるか、あるいは飲んでいないのか。そこをチェックしないと、薬が本当に飲めているかわかりません。独り暮らしの方ならなおさらです。医師の指示がなくて保険点数がつかなくても、気になるところには出かけて残薬をチェックし、服用状況を確認。必要であればきちんと服用できるような環境を整えています」。

もうひとつは、声をかけて、さり気なく生活の様子を見る、つまり「見守り」だ。衣・食・住がたりているのか、冷暖房が適切なのか、水分はとっているのかどうか、それとなく様子を聞いてみている。 薬剤師目線での見守りのなかで、必要が生じれば、主治医や看護師、介護スタッフに連絡をとる。また、日々の介護に使いやすいツールなどを提案することもある。在宅患者さんの中には、がんの末期などで自宅にもどった人、つまり、治る見込みのない人もあり、1人当たりの平均余命は約30日と、決して長くはない。
しかし、それだけに関わりはより深いとも言える。 3ヵ月間でおよそ4分の1の方が亡くなられます。訪問時に亡くなっているのを発見したこともありました」。 死にも直接的に関わるという、薬剤師としては稀なポジションにも立つわけだ。

組織として体制づくりが 個人としては人間好きであることが必要

介護事業も手掛け、広い範囲でコーディネーターの役割も担う森さんのもとには、さまざまな相談が寄せられる。そのため、在宅患者さんの情報リスト、スタッフの連絡網、介護サービス施設などのリスト、市内医療機関リストを常に携帯。いつどんな相談があっても対応できるようにしている。

自発的にはじめた理由は、「困っている人がいたから」と、シンプル。

「当初、すでに多くの医師や薬剤師が取り組んでいると思っていたのですが、そうではありませんでした。が、誰かがやらなければという思いで、ニーズを探りながら進んできました。最近は、在宅訪問に取り組む薬局も増えましたが、体制づくりが必要であり、簡単なことではないと思います」。

また、学生や若い薬剤師のなかにも興味を持つ者は少なくない。それについては、「課題はコミュニケーションでしょう。極端に言えば、薬局では薬剤師のテリトリーで薬剤師が主導権をもつが、訪問先では患者さんのテリトリーで患者さんが主導権をもつという違いがあり、そこに順応できることも必要です。そして、人間好きであることは不可欠です」。

広がりを阻む一因として、社会における認知度の問題もあげる。
「患者さん側にとっては、在宅訪問で薬の管理指導が受けられること自体がそれほど認知されていません。我々は、居宅介護支援事業所のケアマネジャー、あるいはその周りの人からもその情報を伝えるようにしています」。
制度をより活用していくためには、社会基盤の整備も必要であると思われる。

在宅訪問の実際を追うなかで、在宅医療における薬剤師の役割には、調剤した薬をとどけることに留まらず、確認、見守り、精神的ケア、そして連携づくりと、実に幅広い可能性があることがわかった。高齢化の進行にともない、在宅医療がますます増えていくこれから、その役割は一層重要なものとなっていくだろう。

ライター 石井聖子

「もっと外へ。」後編 ~地域連携医療の中で

社会情勢の変化とともに医療、福祉、介護は変化を求められ、薬剤師という立場もその例外ではない。著しい高齢化の流れのなかで、これからの薬剤師の在り方とは

 前篇では、愛知県のJR春日井駅南口前にある「グリーン森薬局」経営者・森公作さんの訪問薬剤管理指導および居宅療養管理指導への取り組みから、在宅医療における薬剤師の役割を考えてみた。後編では、そこからさらに広がる取り組みを追いながら、地域の連携医療における薬剤師の可能性について考えていく。

「外」へ出て、「中」へ入っていく 施設併設薬局の取り組み

グリーン森薬局では、個人宅のほかに、高齢者が多く入居する賃貸住宅、ショートステイ施設などにも訪問し、薬の管理指導をおこなっている。なお、ショートステイ施設は保険点数の対象外で、完全にボランティアだという。
さらに、春日井市内の特別養護老人ホーム内に医務室を設けて、薬局業務(配薬)をおこなっている。つまり施設併設型の薬局だ。常勤の薬剤師をおいているわけではなく、森さん自身が訪問スケジュールに組み込み、定期的に出勤し、業務をこなす。
これは、薬局の「外」へ出て、施設の「中」へ入っていくという、今後、需要の高まりが考えられる、もうひとつの形と言える。

各施設において 特に意味を持つ一包化調剤

特にそうした施設で役立っているのが、一包化調剤だ。
高齢者の服薬は、薬の種類が多く、服用のタイミングも複雑であることがほとんど。たとえばショートステイを利用する場合、ヒートシールつきのままの薬を施設に持参すると、看護師や介護スタッフに非常に大きな負担がかかることになる。 そこで、グリーン森薬局では早期に一包化の機械を導入。一包化調剤をはじめた。1回ごとの薬をつめた袋に患者さんの名前を明記し、朝は赤、昼は緑、夕方は青、就寝前は黒と、服薬のタイミングをラインで色分けして示している。 これによって飲み違いを減らすことができるのはもちろん、看護師や介護スタッフの負担を大幅に減らすことができるのだ。
なお、個人宅にも、各ケースに合わせ、必要な場合は一包化調剤をおこなっている。 「こうしたニーズを把握し、対応していくことで、保険点数は後からついてくるはず。私はそう考えます」(森さん、以下同)。

積極的に外へ出て ニーズを探って掘り起こす

「医薬分業が進んだことで、多くの薬剤師が街には出ました。しかし、薬をただ渡すだけでは何も解決ができません。どんどん外へ出て、ニーズを見つけていってほしい。たとえば薬局が暇になる時間帯に、親しい顧客の様子を見にいくだけでもいい。初めは無償でやるくらいの姿勢で。

そんな取り組みが、これからの地域医療を支えていくのだと思います」。 地域密着型の薬局は減少傾向にあるが、その存在意義は確かにある。そのひとつが、ますます高齢化が進むなかで、医師や看護師、介護スタッフらと密に連携しながら、これからの在宅医療を支えていくことなのだ。 

実行から広がり、深まっていく 患者さん中心の連携体制

グリーン森薬局の場合、無菌製剤やがん患者さんの疼痛管理のための麻薬処方箋などにも対応可能であることが地域の医療機関に認識されるにしたがって、在宅患者さんの処方箋も増加。その訪問先で、主治医や看護師、担当のケアマネジャー、介護スタッフらとの連携が深まっていったという。

ニーズを見つけたら、まず自分でできることは自分でやる。できないことには適任者を紹介。必要であれば、行政へ相談にいくようにとのアドバイスなども随時おこなってきた。そうすることで、患者さんを中心にした「連携体制」がつくられていったという。

自身で感じたニーズから、すでにデイサービスや介護タクシー、ヘルパー及びNPO法人も立ち上げている森さん。しかし、「まだまだできることはあるはず」と言う。 「これからは、医療や介護の枠のなかだけではない、各商店やほかの住民も含めた、患者さんの生活の場である地域全体、コミュニティとの連携までを考え、在宅患者さんがより幸せに生きられる環境をつくっていきたいと考えています」。 地域の連携医療のなかで薬剤師のはたす役割、その可能性は決して小さくない。「医は仁術」という言葉があるが、薬剤師の仕事もまた仁術の側面をもっており、今後はその部分がますます大切になっていくのではないだろうか。

 

森さんの現在の希望、要望

医療機関で使用できる薬が在宅では使用できない(保険請求できない)医薬品や医療材料等があり、今後は全て使用できれば更に患者さんへより良い方向へ進むものと思っている。

* * *

今回、はっきりと見えてきたのは、薬剤師の居場所はもはやカウンターのなかだけではないということ。
薬剤師がやるべきこと、また、できることは調剤だけではないということだ。森さんの言葉のように、これからの薬剤師は、患者さんをまっているだけではなく、どんどん外へ出てニーズを掘り起こしていくことが必要になっていくだろう。そしてそのなかでは、「患者さんのため、その命と幸せのために」という姿勢、心構えをもつことも大事になる。 

ライター 石井聖子

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